ACRMTSM KANAZAWA

Between Destruction and Creation
完成の定義、未完成の儚さを価値想像した空間

筆者 : 株式会社ACRMTSM 代表取締役社長 大槻優士

私自身がこれまで旧ACRMTSM KANAZAWAを含む複数店舗の出店はしたことはありましたが、コンセプト設計からデザインを起こす作業や建築に対する構成、空間デザイン、職人を入れての大掛かりな内装デザインは、このACRMTSM KANAZAWAが初めてでした。

自分にとってのデザインは、例えば「電車の看板」や、「iPhoneのテキスト文字」など。他には、「公園や街路樹」、「道路の看板やその高さ」は、市町村のデザインで目馴染みするもの=デザイン。アートは反対に心が揺れ動くさまや目を惹くものや感情的な現象。

「自分にとっての理想空間」を考えているうちに、デザインもしたくはないし、アートというのも...と思い、私が普段から思うことや、思い描くことやACRMTSMのこれからなどを書いた抽象的な小論文から特注で職人と制作した什器や、造形物へデザインを落とし込む作業をしました。また通常の小売店や事務所などの空間設計では横に目線がいくのに対して縦に目線を流す事も並行して考えました。

縦に大きい造形物を要すると死角が生まれてしまいます。隣が飲食店ということなどもあり、どこから見ても非常口などが可視化できることが前提のため、機能性もデザインするための創意工夫も必要不可欠でした。それらをもとに「デザインとアートの狭間」や「完成と未完成の狭間」、「現実と理想の狭間」を構成しました。


移転先は既存店の約十倍の売り場面積となり、現状の店舗とは違うコミュニケーションが生まれることを想定し、既存のアパレルショップで持っている既成概念を壊すところからデザイン業務をスタートさせました。画一的な間仕切りなどは考えずスケルトン状態から一つ一つの動きを丁寧に考察し、必要なものとそうでないものを選択、来店される方々が店舗に何を期待して訪れ、その先を感じてもらえるような什器配置、動線設計や照明などの演出を施しました。

移転先で選定した物件は当初からのスケルトン状態であり、緊張感のある空間でした。今回のデザインではその緊張感は維持しつつ、ACRMTSMが持っている雰囲気を表現し、間仕切りは全てPBなどは貼らずLGSのみで構成。概念としての壁で構築し、スタッドのピッチを少しづつ変えることでみる角度によって見える範囲が変わるように工夫。中二階として足場材を設け店舗内のショーケースとして利用しています。

フィッティングも普段はオープンなスペースとし、必要な時にドレープを利用することでフィッティングスペースとしての役割を果たします。空間の天井が非常に高かったため天井の上のスペースも利用し、洋服を展示できるスペースとしています。店舗の入り口は既存店であるような少し篭ったスペースとすることで従来のACRMTSMの店舗のファンも従来の店舗のイメージを持ったまま来店をすることができるようにしています。


背景・コンセプトについて

Between Destruction and Creation(破壊と創造の狭間)

移転前に比べて10倍(9.9倍)の新境地への葛藤を解釈し、11Mある間口に対して、お客様用の間口は3Mのみと意図的に絞り、約9坪からはじまった旧店舗の様々な思い出をサンプリングするように、備品配置、構成を盛り込んでいます。そこを過ぎるとコアスペースが在ります。

敢えて工業製品を物件内で活用する事で、完成に向かう過程、破壊される様な狂気性と違和感を創造しています。また足場用資材を内装備品として転換する事は完成と未完成の狭間の精神性を表しています。完成の定義、未完成の儚さを価値想像した空間です。


男女性差ない「ユニセックスショップ」というのを平台で表現。140cm - 180cm以上の方には浮遊感がある造作家具です。ACRMTSMの衣服を着用される方の身長制限の広さに対する認識を持たせます。

入口入ってすぐのスペースは、約9坪からはじまった旧ACRMTSM金沢店舗の天井の高さや幅、備品配置などを構成をサンプリングしています。

本来は外で建物を壊す際、建てる際に用いる足場用資材を内装として転換する事は完成と未完成の狭間の精神性を表しています。完成に向かう過程、破壊される様な狂気性と違和感を創造しています。

縦に伸びるLGSのピッチを左から徐々に広げていくことで「見ること と 観ること」の違い、"観ていたい"という私の小論文の一文を表現しています。牛は見たことあると思いますが、「牛のツノが生えているのは耳の前からか後ろからか」というところまで物事を観る。という視角の深さを創出しています。


ACRMTSM KANAZAWA

CREDIT

Design : Yushi Otsuki(ACRMTSM) / Satoshi Miyakawa(seitaro design)

Photo : Masaki Oriyama(Apits Art Photography)

▶︎世界三代デザインアワードのひとつ"Red Dot Design Award 2022"をACRMTSM KANAZAWAが受賞しました。詳細はこちらをご覧ください。

▶︎スイスの国際的に権威のある建築デザイン賞を受賞しました。Reddot Design Award 2022に続き、2度目の世界的デザイン大賞、受賞となります。詳細はこちらをご覧ください。

▶︎ドイツの国際的に権威のある建築デザイン賞を受賞しました。Reddot Design Award 2022BUILT DESIGN AWARDS 2023に続く、3度目の世界的デザイン大賞、受賞となります。詳細はこちらをご覧ください。

▶︎ポーランドおよびドイツで行われる国際的に権威のある建築デザイン賞を受賞しました。Reddot Design Award 2022BUILT DESIGN AWARDS 2023GERMAN DESIGN AWARD 2024に続き、4度目の世界的デザイン大賞、受賞となります。